絵本『ねこはるすばん』でリアルな仕草にむねきゅん
名称:『ねこはるすばん』
著者:町田尚子
出版:ほるぷ出版
猫の飼い主が外出する。その間おとなしく待っているかと思いきや?猫は不思議な力を使って猫が闊歩する世界でおひとりさま時間を過ごします。
普通の猫ならできない人間の楽しみを満喫していきます。
擬人化された動きを動物がしているとその動物をよく知る人(猫を飼っている人など)は違和感を感じるかもしれませんが、この本では猫は実際にこんなことしているよね!という仕草もふんだんに描かれているのですんなり頭に入ってきます。
お気に入りのものに顔をす〜りす〜り擦り付けたり、細い穴を通る時の後ろ足の動きや、グルーミングしあっている時の猫の表情は秀逸です。
表紙のページと、最後のページの猫の表情の違いにご注目ください。ネタバレになるので詳細は申し上げられませんが、猫に対する愛おしさに私は胸を射抜かれました。
実は動物を題材にした感動する作品は悲しくなったり感情の揺れが激しくなってしまうので苦手なのですが、こちらの作品はほのぼのとしている中にユーモアが散りばめられているので、終始笑えます。
あとは耳がさくら型に切り込まれた猫もよく見ると出てきます。この猫にも意味が込められていると考えられます。
公益社団法人どうぶつ基金では動物愛護事業として「さくらねこ無料不妊手術事業」を行っています。飼い主のいない猫に対して捕獲(trap)し不妊手術(nuter)し元の場所に戻す(return)ことで個体数を繁殖を防止しつつ殺処分の減少に寄与しようという活動で、その目標として耳の先端がさくらのようにV字カットされています。
TNRに関しては様々な課題や意見があります(手術後に猫を放したら繁殖はしないため野良猫の数を抑制することにはつながる。しかし存命の間は地域の野生生物を捕食する可能性はあるなど)。
一つ一つの課題に関しては明確な答えを提示するのは難しいかと思いますが、お子様にはこの絵本をきっかけに猫の負担をできるだけ軽減しつつ、野良猫の数を抑えようとする活動が世の中にはあるということを調べるのもよいかもしれません。
詳しくはどうぶつ基金ウェブサイトをご覧ください(URL: https://www.doubutukikin.or.jp/activity/campaign/story/ )
絵は作者の意識したものしか描かれません。
私たちは作者の認知したフィルターを通じてその作品世界を味わうことになります。
まるで目の前に本物の猫がいるかのような気分にさえ陥ります。そして冷静に冷徹に静かに猫の行動を観察し、スケッチしている作者の温かい眼差しの気配がすべてのページに道いています。
読者である我々は飼い主が留守番中の猫の縦横無尽に楽しむ姿をこっそり観察します。
作者の視線を「借りて」いるような気持ちになる不思議な絵本です。
観察し、それを表出する能力があるなんて羨ましい。私もこのくらい正確かつユーモアたっぷりに世界を記述することができたらどんなにいいかと思いました。