獣医師ふーの日記

日々気になったこと

『クワガタムシハンドブック増補改訂版』

 

 

・『クワガタムシハンドブック増補改訂版』基本情報

横川忠司著、文一総合出版

 

日本に生息する多数のクワガタムシが網羅的に美麗な写真ととも記載されています。定規としても使えるように1mm間隔で大きさが測れるようになっているのでフィールドでも使いやすいサイズです。

 

また、コラムも充実しています。

 

夏の終わりによくみられる「ペットショップで購入したクワガタムシの個体を近所の山林に放つ」ことの問題点を科学的見地から解説しています。

 

カブトムシやクワガタムシを飼育するのは子供の理科教育にとっても良いと思いますが、購入した個体を「自然に返してあげる」という行為には違和感を感じていました。その違和感がこのコラムを読んだことで解消されました。遺伝子撹乱を起こすためです。

 

こうした行為は環境や生態系に関する知識がたりないだけで、お子様や親御さんは善意で行っているでしょう。その問題点が簡潔に図鑑に記載されているので、生物保全に対する素晴らしい啓蒙・提起だと感じました。

 

そのほか外来生物としてのクワガタムシクワガタムシの大顎は幼虫のどこにあるのかなど、研究をわかりやすく解説しているコラムもありますので、大人だけでなく虫が好きな小学校中学年以降のお子様も十分楽しめる内容となっています。

 

まだ漢字や文字がおぼつかない幼児〜小学校低学年のお子様でも美麗な写真だけでも楽しめるでしょうし、コラムに書かれていることをもとに思考を深める質問を投げかけてみてはいかがでしょうか?

 

基本的にはペットはどんな種類に限らず一度飼育したら野外には放たず、死ぬまで衣食住を整えた環境で飼育する(終生飼育)が大原則。

これは改正動物愛護管理法においても明記されていることです。

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小学校中学年くらいのお子様は環境省の作成している一般飼い主向け終生飼養ガイドラインが参考になるでしょう。

 

環境省 終生飼養ガイドライン

https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/pamph/h2508b/full.pdf

 

幼児〜小学校低学年のお子様向け想定語りかけ:

ペットショップで買った虫を野に放つことはいいことかな?わるいことかな?

→子供がこたえた内容に関して否定せず「どうしてそう思ったの?」「その個体も種全体も守るためにはどうしたらいいかな」などと語りかける。

 

会話

逃してもらうのはその虫だけの立場ではいいかもしれないね。でも、その地域のクワガワムシの特徴がなくなる可能性があるね。

人の意図的な介入で生き物の遺伝情報がかわってしまうと、将来どんな影響があるかわからないし、こうしたことがどんどん続くとその地域にしかいないクワガタムシは世代を重ねるごとに消滅してしまうかもしれないんだよ。

 

クワガタムシの飼育&飼育個体を野外に逃すことの問題点出し&改正動物愛護管理法とのつきあわせ&可能なら生態系を守るためには今後どんな法律が必要か?などで自由研究にできるのではないでしょうか。

 

図鑑や生き物読み物として面白いだけでなく、動物愛護管理法にもつながる思考に結びつけて考えることでお子様も様々な見方をすることができるでしょう。お子様向け図鑑も大人にとっても、体系だってその分野を学ぶことができます。今度のクリスマスはカブトムシとクワガタムシに特化した図鑑を購入し、来年の飼育に備えます。